現実よりも愛してる

ポケベルが鳴らなくて」という曲があります。

20年くらい前の、今ではAKBで有名な秋元康が作詞した曲です。

 

不倫をテーマにしたドラマの主題歌なのですが、

好きな人からの連絡を待っている時の気持ちや、その連絡の有無に振り回される様子、かといって自分からは連絡出来ないもどかしさなど、

連絡手段がポケペルからスマホへと進化した現代においても、人の気持は変わらないものだなぁと思います。

 

 

特にタイトルの「現実よりも愛してる」というフレーズは衝撃的で、それに加えて核心的です。

 

あくまで私見ですが、不倫をする人、叶わぬ恋を追い駆けたい人というのは、心のベクトルが相手に向いているようでいて、その実は自分の方だけを向いているという人が多いように見受けられます。

そういった人たちにとって大事なのは、「相手が誰か」ということではなく、「その相手を通じて自分がどういった状況に陥るか」なのではないかと思ったりもします。

 

そして、本人としても自分が思い描く理想としての相手と、実際の相手との間の齟齬に少なからず気付いてはいて、その上でなるべくそれに気付かないフリをしている。

 

それの行き着く先が「現実よりも愛してる」なのかなと思います。

ポケベルやラインでのやり取りでしたら、実際に会う場合よりも情報量が少ない分、理想に限りなく近い状態の相手とやり取りすることが出来ますからね。

おそらく片想いの原理も似たようなものでしょう。

 

 

しかしここまで極端ではなくとも、人というものが何かを好きになるというプロセスは、結局のところ、こういった「自分勝手な翻訳」を抜きにすることは出来ないのかもしれません。

好意好感を抱くのは対象自体にではなく、自分のレンズを通した上で自分のセンサーに感知された、加工された対象だと、言えなくもないですからね。

 

 

少し深く考え過ぎかもしれませんが、恐らくそう遠くはない解釈が、このシンプルなフレーズには込められているはずです。

作詞家としての秋元康の才覚を20年も昔の曲に見つけた気がしました。